コラム

2009/1

医療の優先順位

医療の優先順位

このところ医療崩壊がマスコミを連日賑わせている。病院に勤務する医師が退職したことをきっかけとして、地域の医療体制が維持できなくなる現象が後を絶たず、閉院・休院に追い込まれる病院さえも出始めている。医師不足で経営が行き詰まり、市立総合病院を休止した千葉県銚子市では、病院存続を公約としていた市長のリコール運動にまで発展、また佐賀県武雄市でも、市民病院の民間移譲を決めた市長が辞職し出直し選で是非を問うなど、医療問題は地方政治の大きなテーマとなりつつある。

1970年代の一県一医大構想及び私立新設医学部の急増を経て、1980年代以降、医師は過剰であるとされてきた。それが2000年前後から一転して医師の不足が強調されるようになり、いまや医療界では医師不足は深刻で看過できない問題となっている。

医師の確保及び十分な医療提供は、社会に安全感をもたらす重要な要素の一つである。医師の確保策や不足を補う仕組みとして、医学部定員の増加、遠隔医療の実施、医師・看護師が本来業務に集中できる環境の整備、女性医師が働き続けられる勤務体制、海外医師の招致等の方策が検討され、また取組みも始まっているが、究極的には、医療費に関する議論を徹底的に行い、場合によっては医療費抑制政策の見直しも必要となってくる。医師の更なる供給が不必要な需要を生み出し、その結果、医療費の必要以上の増大を招くというこれまでの考えを続けるならば、いかなる対策を取ったところで、その実効性は期待できないからである。

医療費に無駄があり、効率化の余地が十分あるという指摘も首肯できるところはある。しかし、高齢化が進み、医療が重装備化・高度化する中で、医療費が増大するのは必然とも言える。医師不足や医療崩壊をきっかけに国民的な合意のもと医療費拡大に政策の舵を切った英国のように、医療費抑制政策を継続することの是非について真剣に考える時期に来ているのではないか。政治とは、限られた予算の中で政策の優先順位を決めること。医療の現状を正確に認識した上で、政策の優先順位について、政治の場で国民的議論を深めていくことが強く望まれる。

菅原 尚子
調査局
専門:医療・福祉、PPP


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