コラム

バックナンバー

2011/02

森の守り人

私は高校を卒業するまで地方で育った。我が家の隣には雑木林が残り、毎年春は咲き誇る山桜を、秋には木々が色づいていく様子を窓から眺めながら育ったせいか、現在でもときおり木立の中を散歩したくなる。そんなある日、林野庁のホームページで『白神山地での紅葉狩り』の案内を見つけた。行ってみたかった世界自然遺産の白神山地を、林野庁の方に案内していただける!と早速応募してみたところ、幸運なことに当選の連絡があり、10月のある日、白神山地を巡る小旅行に出かけてきた。
林野庁は、国内の自然保護のため、7種の保護林を全国各地に設置しているが、国有林である白神山地は保護林の1つである森林生態系保護地域とされている。この地域は原生的な天然林を保存することにより、自然環境の維持、動植物の保護、遺伝資源の保存、学術研究などに資することを目的に設定されるもので、保護林の中でも規模的に大きく、最も重要なものだそうである。そして、核心部を森林生態系の厳正な維持を図るための「保存地区(コア)」、その周辺部を緩衝の役割を果たす「保全利用地区(バッファーゾーン)」とする二重構造になっており、保存地区は人手を加えずに自然の推移に委ねることから、学術研究などの場合を除き、原則として立ち入りが禁止されている。
今回の紅葉狩りは、東北森林管理局の内部組織である藤里森林センターが、その主要業務の一つである「森林レクリエーション、指導・普及に関するもの」の一環として実施したものであった。当センターは職員数7名、所長以下みなさん総出で、参加者7,8人ずつの3グループそれぞれについて丁寧な解説とともに歩いてくださり、またきれいな場所では記念写真を撮って後日送ってくださるという至れり尽くせりの内容であった。
白神山地の特徴は、人為の影響をほとんど受けていない原生的なブナの天然林が東アジア最大級の規模で分布していることにあるそうだが、そのシンボルともいえるのが通称400年ブナと言われる岳岱自然観察教育林にあるブナの老木である。そこへ案内していただく際に、大変なことが起こったと、穏やかな皆さんの顔が曇っていた。不思議に思いながら現場にてそびえたつ老木を見上げると、からまっているツタが途中から不自然に切れている。人為的に切られてしまったというのである。心ない人に貴重な遺産の一部を損なわれてしまった職員の方たちのやるせない気持ちが参加者にも伝わり、改めて守ることの大切さと大変さを感じた瞬間であった。
実際、この人数で広大な森を守っていくことは並大抵のことではない。特に昨今は様々な予算が削減されているため、観察林に一般の人が入れるようにおがくずのようなものを敷いて歩道を整備したのもセンターの方々であったなど、その業務は幅広い。今回のレクリエーションも、この地域の保護にどういった意義があり、どれだけ素晴らしいものなのかをより多くの人に触れてもらうことで、守ることの大切さを伝え、後世へとつなげていくための取り組みの一つである。年間計画の一部として早くから決まっていたとのことで、スタッフの方たちは日々のパトロールの中で、どういったことに参加者が興味を持つのか、心を砕き準備をして下さっていた。そうした森の守り人たちの真摯な姿がファンを増やすことにつながり、自然遺産保護へ向けた小さいけれど大切な一歩となるのだと感じた。
そんなファンの一人として、あの美しい森を傷つける人がいませんようにと祈るとともに、またいつ伺おうかと考えるだけで、心が弾む。

小林純子
調査局
専門:地域振興、PPP


バックナンバー


ページトップへ