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2011/07

「想定外への準備」

 東日本大震災。土木を学んだ1人として、考えさせられることが非常に多い。

 地震動、それ自体による構造物の損傷は目立っていない。地震の周波数帯が構造物に大きな影響を及ぼすものではなかったという分析も研究者によってなされており、安易に楽観視することは禁物だが、これまでの耐震化の成果と捉えてもよいのだろう。
 ただし、建物の天井といった構造躯体でない部分が大きく損傷した施設は多数ある。建物の耐震設計では、建物自体の倒壊を防ぐことを最優先課題として、構造躯体は大きな地震でも最小限の損傷で済むように設計されるが、天井等については、対策はされているものの構造躯体と同様の耐震性を備えているとは言い難い。構造躯体への対策を最優先にすることは当然のことと考えるが、天井が落下するリスクを土木や建築と関わりの無い人がどこまで知っていただろうか。

 震災被害の大半は津波に起因するものであるが、津波に対する意識が高く、また大規模に津波対策がなされてきた地域であったのに、これほどの被害が生じてしまった。自然の猛威の前には人間が微力であることを改めて認識させられる。
 防災対策を計画する際には、過去に観測された既往最大値、あるいは観測データから算出した100年確率といった値を設定し、その規模の災害から人命・財産を守るべく計画することが一般的だろう。ここで注意が必要なのは、この既往最大値や100年確率値を超える災害が起こらないとはいえない、ということである。しかしながら、想定した規模の災害に対応するためだけの対策で満足してしまい、想定を超える災害が起こりうることを忘れていなかっただろうか。

 どんな地震でも落下しない天井、どんな津波からも守ることができる防波堤といった、絶対に安全なものを求めることは現実的には難しい。であれば、天井が落下するリスク、想定を超える津波が発生するリスクといった情報を一部の専門家だけでなく、広く社会で共有し、リスクへの対策を準備しなければならないのではないだろうか。
 天井が落下する映像が繰り返しニュースで放送された茨城空港ターミナルビルでは、復旧に際して天井を張らないこととした。また、今後の津波対策は、①発生頻度の比較的高いレベルの津波は防波堤等のハード対策で防ぎ、②それを超える津波に対しては避難等のソフト対策で被害を防ぐ、という2段階で進められていくようである。これらは、天井が落下するリスク、想定を超える津波が発生するリスクというものが、認識された結果であろう。

 震災後のニュースで頻繁に聞いた「想定外」という言葉からは、想定に対する対策を行っていれば安全であると思いこみ、想定を超えるリスクを無視してきたように受け取れる。適切な想定を設定し、その想定に基づいた対策を行うことはもちろん重要であるが、それだけで安心するのではなく、想定を超えるというリスクへの準備も怠ってはならないのだと、自分への反省も含めて痛感している。


復旧した仙台駅構内(天井は張られていない)

柳沢宏之
パブリック調査グループ
専門:都市開発・地域開発


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