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2011/09

脱米入欧のすすめ

世の趨勢を見通す力ではE.トッドの右にでるものはいないだろう。古くは旧ソ連の崩壊を、近年では米国金融システムの崩壊を予言し的中させた。トッドはこれをアメリカ崩壊の序曲とみている。日本に関しては、欧州諸国との類似性を指摘しており、半ば冗談ながらEUへの加盟を勧めている。

米国経済で気になるのは、イノベーションの停滞である。世界で最もイノベーション環境が整った米国において、世界経済を牽引するイノベーションが生じないのはなぜか。無論、日本に比べれば盛んである。しかし歴史的にみて、例えば大戦前後の自動車、家電、コンピューター、エアライン、原子力などに比べれば、最近のIT革命は無きに等しい。携帯でゲームをしたりつぶやいたりするのがなんだというのだろう。これはケインズやシュンペーター、下村治らが懸念したイノベーションの停滞ではないのか。先進国の経済が押し並べて低成長なのは、その証左ではないのか。

ケインズは、貿易財はコモディティ化して頭打ちとなり、ライフスタイルなどの非貿易財が先進国ニーズの中心になると予言していた。食関連産業や観光業である。これらが細々とした成長のエンジンとなる時代、イノベーションによって向上した生産性を前提に、伝統的なライフスタイルを再構築する時代が訪れたのではないか。

TPPの議論は、この分水嶺に位置する。これからのイノベーションに賭けるのか、過去のイノベーションの果実と伝統的なライフスタイルの相乗効果に賭けるのか。各々の立場によっても異なるが、例えば地方圏や食関連産業では、後者を選択することが合理的とみられる。TPPほど大きな話ではないが、食品の地理的表示や品質表示において、我が国は、熱心なEU側ではなく、否定的な米国等の新大陸側についてきた。コスト勝負側に賛同してきたのである。少なくともそこは改め、まずは食からEU的な考えを入れてみる。そんな漸進的でハイブリッドな対応が、閉塞を打破する知恵となるのではないか。

佐藤淳
パブリック調査グループ
専門:芋焼酎等地場産業


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