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2011/12

時代のコトバ

「この資料3部、“ゼロックス”しておいて」
社会人になって間もない頃、上司から言われて違和感を抱いたコトバである。当然それが「コピーしておいて」という意味であることはすぐに理解できたし、最初は(いやいや、これcanon社製だけど…)等と思いながらも、同様の光景が繰り返されるうちに次第に何とも思わなくなっていった。
また、年代は近いけれど少し上の上司が口にする「“ヤフー”で検索」と言うコトバに対しても、最初こそ(イマドキはgoogleだろ…)等と思いながらも、ちょっとしたジェネレーションギャップという程度の認識で深く意識することもなかった。

ある時、何気なくそんな話を同世代の仲間内でして盛り上がり、お得意のgoogleで検索してみると、今から50年も前、それまでいわゆる青写真である湿式のコピーしか無かった時代に、米国XEROX社が世界で初めて現在のような乾式の普通紙コピー機を開発し、オフィスに一大革命をもたらしたことを知ることとなった。同社の製品が先端でかつ市場を独占し、旧式機でコピーすることに対して、この新たな機械でコピーすることを「ゼロックスする」といって区別したとのだという。
とりわけ、この新しいコピー機が日本のオフィスに定着したと言われる1970年代から1980年代にかけて学生から社会人になった人々にとって、それは正しく、最先端のコトバだったのだ。
ヤフーの話も、インターネットの普及に加え、1990年代後半に出現したyahoo! JAPANを始めとしたロボット型検索エンジンが、当時の社会、社会人にその在りようが衝撃を与えたことを意味していると理解できる。

固有名詞が半ば一般化されて使用される例は身近なところでたくさんあるようで、「ホチキス(一説にステープラーの発明者名)」や「クラクション(自動車の警告ホーンを作っていた会社名)」等のように世代を超えて定着したものから、近年の例では写メールやツイッター等も元は固有名詞であることを認識されずに広まっているものと見受けられる。
冒頭のXEROX社の技術革新に限らず、いずれの例もその時代時代において少なからず社会や人々にインパクトを与えたことは間違いなく、日常生活において正確な商標に基づいた言葉遣いを心がけるというよりは、異なる世代の人が用いるコトバに違和感を抱いた際には、その背景を気にしてみると新たな物の見方が広がるのではないかと感じた次第である。

自分ではなかなか気付けないもどかしさがあるが、10、20年後、恐らく携帯音楽プレーヤーのことを「アイポッド」と呼ぶであろう私に対し、若い世代が(おばさんだな)と一瞥するだけでなく、ウォークマンの出現以降、それまで10数曲しか持ち歩けなかった音楽が突然に何千曲にもなった2000年代を過ごした若者の驚きを少しでも想像してもらいたいと密かに願うのである。

ちなみに、ブラジルではXEROXのことを「シェロックス」と発音するそうだが、50代前後の人の中にはコピーを取ることを「シェロカール」(もちろん、ゼロックスするの意)と呼ぶ人がいるそうだ。

松本麻里恵
調査本部
専門:建築・都市計画、公共施設マネジメント


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