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2012/01

長野県軽井沢町―碓氷峠―群馬県松井田町(現安中市)

関東人の避暑地として、また観光地として有名な軽井沢の手前に碓氷峠という峠があることは、わりと知られています。この碓氷峠は、旧中山道の横川側の坂本宿と軽井沢の宿の間にあり、標高は1000mを切るものの、高低差が大きく中山道の難所として古くから知られていたようです。ちょうど、長野県の軽井沢町と群馬県の松井田町(現安中市)の境が峠の上になっており、信濃川水系と利根川水系の分水嶺にもあたるという地理的な特徴もあります。

現在は、横川―軽井沢間の鉄道は新幹線開通の際に廃止されておりますし、車は国道18号の碓氷バイパスか高速道路を通ることになり、昔の人が馬や旅装束で歩いた峠道は、山の中の旧道のままと聞きます。

初秋の頃、この峠道を歩いてみようと思いました。といっても、歴史的な難所を登って越える自信はなく、軽井沢側から横河側に降りるのであれば下りだからさほどたいへんではないだろうと目論んで、峠の頂上、分水嶺で、神社の中に県境があるという珍しい熊野神社のところから歩き始めることを考えました。熊野神社は旧軽の別荘群のすぐ先です。

この旧道の地図あるいは案内図が欲しいし、果たして歩く道は整備されているのか、台風などで崩れて通れないことはないのか、案内板などはあるのか、山の中で迷ってしまうようなことはないのか、そんな基本的な情報を知ろうと、軽井沢駅前の観光案内所に問い合わせて足を運んで見たものの、ほとんど全くと言っていいほど情報がありません。大観光地で、観光にとても力を入れている町で、さまざまな情報を発信しており、熊野神社とその手前の見晴らし台までは紹介されているのですが、町域は神社まで、その先は町域外どころか県外ですから業務範囲外になってしまい、横川に至る旧道に関しては地図も情報もないのです。私が当惑している様子を見て、周囲の人にあれこれ聞いてくださり「歩いたっていう人を聞いたことがあるからたぶん大丈夫」程度のお話を伺うことができただけです。

仕方なく、スタート地点と想定していた熊野神社を越えて、群馬県側に入り、旧道に入る方向に行ってみました。と、ほんの数十メートル、群馬県松井田側に入っただけで大きな案内板がありました。群馬県に入ったところにあるお団子屋さんには、松井田町作成の地図がありました。この峠で毎年、町の子供たちの山を走るマラソン大会があるから歩く道は概ね整備されていること、分岐は1か所だけ間違えなければ大丈夫なことなど教えてくださいました。なーんだ、松井田側では、ちゃんと情報を発信しているんです。

熊野神社をスタートして、坂本の宿を越え、アプトの道を通りJR横川駅に至るまで、馬や籠で越えるのはさぞたいへんだったろうなあ、山賊や熊が出るなど怖いこともあったろうな、と大木に日光が遮られた薄暗い山道を下りながら、遠い昔を想像できる旧道を下り、半日のハイキングで無事横川駅に出ることができました。

碓氷峠の知名度や、そして、実際は膝が笑ってしまいますが、下りの方が楽だろうと考える都会から観光客の多さを考えれば、松井田側だけでなく、軽井沢側で、それも峠の頂上を越した場所ではなく、多くの人が行きかう駅周辺や旧軽で、この峠と旧道ハイキングの情報を発信することでもっと多くの人が四季折々の旧道ハイキングを手軽に楽しめるのではないかと思うのです。旧道を歩いた先には、JRの廃止で整備された横川の「アプト遊歩道」があり、歴史的な変電所やレンガ造りの橋などが残されていて、鉄道の歴史も楽しめます。一休みできる場所の情報や、横川駅と軽井沢駅を結ぶバスの時刻、あるいはJR横川発の列車の時刻などがあれば、もっと碓井峠を楽しみ易くなるのになあ、と思います。碓井峠は、軽井沢側から降りた方が楽ですが、宿泊先や滞在する都会的な楽しさは圧倒的に出発点である軽井沢町に蓄積があります。人は、行政区分とは無関係にアクセスの良さ、魅力的なルートで動きます。軽井沢側から旧道を楽しむ人の立場にたった有益な情報を、町や県といった行政区域を越えて提供していくことで、都会からの訪問者がその土地にしかない魅力を知り、そこで滞在する時間を増やすことにつながるんじゃないかと考える経験になりました。

紅葉の頃や新緑の頃も素敵だろうと思います。夏も、標高が高く日陰が多いので比較的楽に歩けると思います。鉄道ファンにも楽しそうな、真冬以外は、いつでも歩ける手軽なハイキングルートじゃないでしょうか。野生の鹿や、全国街道踏破中の方にもお会いしました。昔の人の苦労に思いをはせながら、旧中山道碓氷峠を歩いてみてはいかがでしょうか。

秋田涼子
インフラ・環境グループ
主任研究員


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