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2013/04

アレシナの黄金律~我が国財政再建への示唆~

「アレシナの黄金律」ということばをご存じだろうか。財政学に携わったことがある人ならばご存じの方も多いことと思うが、米ハーバード大学の政治経済学者であるアルベルト・アレシナ教授が、1996年に発表した論文で唱えた有名な財政再建成功のための法則である。

アレシナ教授は、1960年から1994年の35年間のOECD加盟20カ国の財政データを用い、財政再建に成功した国と失敗した国の要因を検証した。 アレシナ教授によれば、財政再建に成功した国は、歳入拡大よりも歳出削減に力を入れているのに対し、財政再建に失敗した国は、歳出削減よりも歳入拡大に力を入れていると言う。これは、日本の財政再建のあり方を考える上で、非常に興味深い示唆を提示していると言える。

アレシナ教授の財政再建成功の法則(「アレシナの黄金律」)は、以下の2点に要約される。

① 歳出削減と歳入拡大の割合は、7:3
② 歳出削減では、公共事業の削減のみならず、社会保障や公務員人件費の削減まで切り込んでいる

小職は、かつて、アレシナ教授の分析手法に習い、1960年から2000年代前半のOECD加盟国21カ国の財政データを対象に、財政再建に成功した国と失敗した国の要因を再検証した。同分析期間には、90年代後半の欧州各国によるEU通貨統合へ向けた財政再建の取組み事例が多く含まれている。財政再建の成否の要因を検証する期間としては非常に興味深い期間と言える。

小職の検証によれば、財政再建に成功した国の特徴としては、①歳出削減と歳入拡大の割合は、6:4、②歳出削減では、公共投資、社会保障、公務員人件費の削減の割合がほぼ同じになっていることが確認されており、アレシナの黄金律を概ね支持する結果が得られた。また、歳入面においては、③国有財産や政府保有株式の売却に積極的に取組んだ財政再建も成功する傾向があることがわかった(特に90年代以降)。

成功した財政再建は、その後の経済成長に対しても、民間消費、民間設備投資等の民需を誘発し、実質GDP成長率の上昇、失業率の低下等をもたらす。政府が国有財産等の売却や社会保障改革や公務員人件費改革等に積極的に取組むことにより、民間部門の将来財政負担に対するマインド改善を促し、景気を持続的な成長軌道に乗せることが出来るためである。

翻って、足元の日本の財政再建の取組みはどうだろう。

歳入面では、消費税の2014年春からの税率引き上げ(5%→8%)が決まったが、歳出面では、社会保障改革も公務員改革も道半ばである。一方、公共事業は、国土強靭化計画の名のもと、今後10年間で事業規模200兆円程度の事業が実施される可能性があると言う。真に必要な防災・減災投資やインフラの老朽化対応投資等は喫緊の課題であるものの、公共事業の優先順位や実施基準の明確化が求められる。

アレシアの黄金律に照らして見た場合、日本の財政再建は、財政再建に成功した国々が辿った道とは逆の方向に向かう危険性はないだろうか。

足元景気は、アベノミクスの効果により、円安・株高が進展し、景気回復期待が急速に高まっている。しかし、今後、実体経済の回復や社会保障と税の一体改革等歳入・歳出面の抜本的な改革が伴わなければ、消費増税の負担感は高まり、政府の目標とする2020年までの基礎的財政収支黒字化(平成22年6月22日閣議決定)の達成が危ぶまれる。勿論、財政再建成功のためには、成長戦略による日本経済の更なる底上げが必要なことは言うまでもない。

財政再建成功のために絶対的に正しい方策はない。しかし、アレシナの黄金律は、日本が財政再建に取り組むに当たって、歳入拡大よりも歳出削減を優先して取り組むことがいかに重要であるか、歳出削減と歳入拡大の割合はいかにあるべきか、歳出削減の中ではどの費目の改革が重要であるのか等について、重要な示唆を提供しているものと考えられる。

(注)本稿の内容、意見は、全て筆者の個人的見解であり、㈱日本経済研究所の公式見解を示すものではありません。


国と地方の長期債務残高の推移(兆円、%)

(資料)財務省


金内 雅人
ソリューション本部
ソリューション部長


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