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2013/08

ツール・ド・フランスとものづくり

7月は毎年自転車レースのツール・ド・フランスが開催される。今回は100回目の大会ということもあり、日本でもメディアでも取り上げられることが多かったのではないだろうか。毎年、フランス各地の絶景を見ながら一度は行きたいなぁ、と思いながらテレビ観戦している。レースの内容はさておき、プロの方々が乗っている自転車は100万円を超えるものも多い。人間の身体能力が問われるので、私がこのような最高級自転車に乗ったところで残念ながら性能は発揮できない。

日本でのスポーツ自転車ブームも少し落ち着いた印象を受けるが、このような自転車のマーケットというのは確実に存在する。ここでシェアを取り、高い収益力を誇るのがシマノである。シマノは自転車全体を作っているわけではない。変速機やホイールといった基幹部品を製造、自転車のフレームメーカーに卸す。もしくは、自社の販売網で小売店を通じて部品を販売している。ものづくりでは「すり合わせ型」と「モジュール型」という議論があるが、自転車はモジュール型の製品といえよう。モジュール型は日本の製造業の不得意分野と言われる。自転車のパーツはある程度規格が決まっており、パソコンに近い構成ともいえる。ユーザーは完成車を買ってもいいし、自分で部品を集めて作ることもできる。自転車の組立に資格等は必要なく、必ずしもシマノの部品を選ぶ必要はない。競合他社の部品を選ぶこともできる。すると価格競争がおこり、自転車全体の価格が下落、部品を提供するメーカーは収益力が下がるというのが一般的な考え方ではないだろうか。だが、シマノの業績は長い間堅調である。

日本のものづくりについて様々な議論がされている。「技術はいいけど売れない。」、「コトづくり」、「イノベーション」という議論はおそらく同じ問題意識なのだと理解している。日本でもシマノのように堅調なものづくり企業も多いなか、全体論で語られることも疑問なのだが、「良い技術」や「技術力が高い」という意味が私には未だによくわからない。学術的な定義はさておき、バブル期後半に売れない製品の開発に携わってきた元エンジニアとして、定量的な性能がいいというだけで売れるものではないということを経験してきた。市場に受け入れられるものがいい技術で、技術が良くないから受け入れられないというのが私の基本的な理解である。

バブル期にはかっこいいスポーツカーに後付けのカーオーディオをつけてドライブに行くことが一つの憧れになっていた。人口減少経済になったとはいえ、まだバブル期と比較しても日本の総人口はあまり変わっていない。だが、自動車の国内販売台数や東京モーターショーへの参加者数を見ても、自動車メーカーの方と話をしても、国内市場が良くなるという印象は受けない。ハイブリッド、電気・燃料自動車といったロードマップと合わせて、デザインの向上といった議論もある。だが、電気・燃料自動車になりデザインが良ければ国内で自動車は売れるのだろうか。

ツール・ド・フランスのコースを走ってみたい、というのが一つの夢である。プロの器材は私にはあまりに不釣り合いだが、若干不釣り合いでも多少は投資してもいいと思っている。この「ちょっと高くても投資したい、買いたい」と思わせることがイノベーションだと理解している。


ツール・ド・フランスとものづくり


西田 陽介
ソリューション本部
アドバイザリー・サービス部長


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