コラム

バックナンバー

2013/09

リハビリテーションの可能性

ご縁があり、この数年は業務で生活期リハビリテーションの調査研究に携わっている。生活期リハビリテーションとは何かと聞かれる事が多いので、この機会に自分の言葉でまとめてみたいと思う。

生活期リハビリテーションを一言で言うならば、これまで医療として行われてきたリハビリテーションの技術や考え方を治療の期間中だけでなく、日常生活にも適用することで、生活の質の向上を目指す取り組み、と表現できると思う。それは医療でありながら、医療を超えて生活や社会等の周辺につながる視点を持ち、相互に影響を与えながら変容を促すという点で、これまでの医療の領域を少し拡大させたものといえる。

医療としてのリハビリテーションは第一に治療や回復を目指しており、患者の心身機能をできる限り病気や怪我以前の状態に回復させることが目的となる。一方、生活期におけるリハビリテーションは治療とは異なる視点で行われる。治療の及ばない障害があることを前提に、障害を抱えつつ生活を維持することを目的としている。そのため、個人の心身機能に働きかけるだけではなく、必要があれば個人をとりまく環境にも働きかけて生活を再建していこうと試みるものである。ただし、環境をどこまで拡大して解釈するか、誰がどのように関わるべきかについてはまだ具体的な基準が存在せず、生活期リハビリテーションにおける課題ともなっている。

生活期リハビリテーションにおける環境を最も狭く限定するならば、福祉用具と呼ばれる車椅子やベッド等までになるだろう。少し広げると家の中の手すりや階段も環境に含まれるだろうし、更に広げて外の坂道や段差なども環境と捉えられる。一般的には、生活期リハビリテーションの適応範囲はこのあたりまでと考えられていると思われる。

しかし、生活を再建するためには、環境の概念を更に広げ、家庭や地域をも環境と捉えて働きかけてゆくことが必要になる場合がある。そのような場合に誰にどのように働きかけるかは、リハビリテーションに関わる者の裁量に委ねられており、腕の見せ所であると同時に非常に困難な悩み多いところでもあると思う。


ある年の調査研究の中で、麻痺のある高齢者の活動空間を広げたいと取り組んでいる事例があった。担当していた理学療法士は、その方の身体能力はもはやリハビリテーションによって回復が期待できる限界に到達しており、これ以上その人に努力を求めるのは酷だ、周囲の環境の方が変わるべきなのではないかと感じた。そこで地域のバス会社に障害を持つ人でも昇降のしやすい、段差の少ないバス(ワンステップバス)を増やすよう掛け合ったところ、バス自体の台数を増やすことはできなかったが、路線と時間の融通をつけ、日中の時間帯にワンステップバスが優先的に投入されることとなった。

この事例は私が想定していた以上に生活期リハビリテーションの可能性を広げてみせてくれた初めての事例だったので衝撃を受けたのだが、気をつけてみると、同様のことは毎年の調査でいくつも起こっている。おそらく、生活期リハビリテーションが医療の辺縁に位置し、生活や社会等と相互に影響を与え合うという性格から必然的に起こることなのだろう。

だが、自分には思いつきもしないことをする人がいて、想像もできなかった素晴らしいことが起こっているのを見るにつけ、生活期リハビリテーションの可能性の豊かさを感じ、非常に明るい気持ちになる。課題も多くあるが、この分野に関わることができて本当に良かったと思っている。


梶谷直子
調査本部 医療福祉部
副主任研究員


バックナンバー


ページトップへ