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2016/03

内陸小国の成長戦略

途上国の開発援助案件を手掛ける中、ここ数年は世界各地の「内陸小国」における成長戦略立案のお手伝いをする機会が多い。ここでいう「内陸」とは文字通り国土が内陸に位置し、海岸線を持たないということであり、「小国」という場合にイメージされるのは、自国の人口が小さ過ぎて、外需なくしては経済規模の拡大が困難な国々である。

近年案件でかかわった国々を挙げるだけでも、アジアではモンゴル、ブータン、ネパール、アフリカではマラウイ、ブルンジ等、多岐にわたる。これらの国々は一般に、海岸線までの距離が大きくなればなるほど輸送コストが高くなることから、輸出競争力が損なわれたり、輸入コスト高が国内物価に悪影響をもたらすといった経済面でのハンディを背負っている。

こうした国々のお手伝いをするようになって、ひとつ面白いことに気が付いた。それは、各国が経済面で目標とする国として、おしなべて「スイス」を挙げることが非常に多いという点である。内陸に位置しながらも、金融、観光、そして時計業界に代表される精密機械やバイオ・医薬といった高付加価値産業を発展させ、所得水準を向上させてきた、いわば「内陸国のエース」的存在ということなのかも知れない。

しかしここで注意を要するのは、自国が「どのような他国に囲まれているか」という点である。スイスの場合、近隣国は経済発展レベルが相対的に高い国々であり、各国相互間におけるヒト・モノ・カネの移動の自由度も高い。しかし世界の内陸国の中には、そうした恩恵が受けにくい国も少なくない。上記各国を見ても、インド・中国・ロシアといった広大かつ少数の大国に挟まれたアジアの国々、そして外需頼みの経済構造でありながら、輸出品目が近隣国と競合してしまっているアフリカ諸国等、その状況は、同じ内陸国でもスイスとはずいぶんと異なるのである。

ではこうした国々が困難を克服し、自国経済を成長軌道に乗せるにはどうしたらいいか?その鍵となりうるポイントを三点ほど指摘したい。

ひとつは、輸送コストに見合うだけの高付加価値産業の創出や誘致である。これには当該産業のコスト構造や近隣国との競合状況が重要な判断材料となろう。この点、内陸国の範疇からは外れるが、過去四半世紀で産業高度化に向け大胆に舵を切り、エレクトロニクスの輸出拠点であった自国を金融、物流、IT、バイオ医薬といった高付加価値産業のハブに生まれ変わらせたシンガポールの戦略が参考になるかも知れない。

二つめは、それらの産業が内陸国に展開する際のコストを抑えるためのテクノロジー(IT等)の惜しみない導入と活用である。こうした技術の出現により、途上国は「ショートカット」を手に入れたと考えることもできる。すなわち、先進国が現在の状態に至るまでに要したのと同じだけの時間をかける必要は、必ずしもなくなってきているということである。モンゴルのような広大な国土を有する国で、瞬く間にモバイル通信回線が普及していったのはその好例といえよう。

そして三つめが、以上のプロセスを加速させるための人材育成・登用である。これまでの経験でいうと、隣国の脅威にさらされ国の存亡に関する危機感の強い小国ほど、こうした施策が大胆に進められている場合が多い。インドと中国に挟まれた人口75万人の小国ブータンの成長戦略のお手伝いをした際、欧米の大学院でエリート教育を受け、完璧な英語で最先端の政策論を語ることのできる若手官僚の皆さんに何人もお会いしたことを思い出す。

残酷なことに、各国を隔てる国境というのは、必ずしもそれらの国が経済的に成功できるかという判断のもとに引かれているわけではない。その意味で、こういう地理的なハンディを背負った国々の成長戦略を考えるというのは、極めて難易度の高い仕事である。しかし、だからこそエコノミスト、政策コンサルタントのチャレンジ精神を惹きつけてやまないという面があるのかも知れない。


ウランバートル(モンゴル)

ティンプー(ブータン)

カトマンズ(ネパール)

リロングウェ(マラウイ)


浦出 隆行
国際本部
研究主幹


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