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2016/06

ネコノミクス狂想曲

空前の猫ブームである。昨年は北村一輝主演「猫侍」、風間俊介主演「猫なんかよんでも来ない」(猫よん)、佐藤健主演「世界から猫が消えたなら」(せか猫)と猫映画が目白押しであった。「岩合光昭の世界ネコ歩き」は書籍もTVも大人気である。YouTubeの猫動画はもちろん外せない。

日本ペットフード教会の調査によれば近年、犬の飼育数は減少傾向にあるが猫は増加傾向にあり、2016年には1,000万匹ラインで逆転している可能性が高い1。いや、猫には地域猫というカテゴリーもあるため、すでに餌付けされている動物の数では天下をとっているのである。「犬の日」はワンワンワンにちなんで作られたというが、1月11日なのか11月1日なのか、はたまたワンワンワンワンで11月11日なのか、今一つ曖昧である(正解は11月1日)。しかし「猫の日」はニャンニャンニャンで2月22日と心に刻んで忘れられないだろう。

このように我が国では猫バカが蔓延しているおかげで猫関連消費が伸びている。いわゆる「ネコノミクス」が、本家アベノミクスが色あせた陰で着々と進行しているのである。その経済効果も2015年1年間で2兆3千万に上るという2 。直接効果だけで1兆1千万円なので、家猫1匹あたり年間11万円の支出になる。本当か?

我が家では10年ほど前に知人の紹介でブリーダーから長毛種の猫(メインクーン)を譲っていただいた。さっそくアイリスオーヤマのペットグッズを買い揃え、キャットタワーまでリビングに入れた。餌は低マグネシウムのものをと念を押されていたので、ヒルズ・サイエンス・ダイエット・プロを与えていた。猫砂はヒノキのウッドチップがお気に入りなので継続的に購入。毎年春先は予防接種、秋に健康診断。毛玉を溜めないための美味しいお薬。お正月を迎えるために年末はトリミング。最近では「CIAOちゅ~る」という恐るべき商品の虜となってしまい、毎日1本おやつとして要求されていた。確かにそれくらい使っているのかもしれない...真面目に考えたことなかったけど。

それだけではない。猫が来てからは2泊以上の旅行はしたことがないし、猫によって破壊されたものは数知れず、我が家の帝王として振る舞っていたのである。進化生物学では人間が猫を飼っているのではなく、猫が人間を飼っているのではないかという説があるが、まったく否定できない。

そうして身も心も尽くしても愛猫との別れの刻はやってくる。つい昨日まで元気だったのが急に具合が悪くなり、獣医さんに診せると肺に腫瘍ができていて水が溜まっているとのこと。呼吸を楽にするために肺の水を抜く手術をするものの、対処療法でしかなく余命1週間と診断された。そして3日後、年末の祝日に愛猫は家族に看取られて息を引き取った。最期まで飼い主に甘えまくって旅立ったようにも思えてくる。

ペットも人間と同じで専門の葬儀社があり、ペット霊園がある。愛猫は火葬後骨壺に入って1年間メモリアルハウスの棚に鎮座することになった。この前、様子を見に行ったら隣にハムスターの骨壺が置いてあった。天国で遊び相手?ができてさぞ嬉しがっていることだろう。こうしたサービスもネコノミクスである。

ペットロス―――。いるべき存在がいないことがこれほど生活の彩りを失わせるものなのかと今更ながら猫の存在感に感心してしまう。猫の痛手は猫で癒す。私たち家族の流浪の旅が始まった。ネットで調べると、都内各地で保護した猫の里親譲渡会なるものが開催されている。さっそく出かけてみることにした。狭い貸し会議室に20匹ほどの猫がケージに入って陳列されている。そこには40~50人ほど里親希望者がいた。猫の飼育環境として共稼ぎはダメらしく、エントリーしたものの選考から漏れてしまった。他にも持家かどうか、小さい子供がいないかなど、里親になるのもなかなか難しい。旅に出てもその土地の猫が気になる、公園に行けば地域猫がすり寄ってくる。猫探しにいいかげん疲れてきた頃、妻が恐ろしいことを言った。「ペットショップに寄ってみない?」

「まあ、見るだけなら。」と私。ショッピングモール内にあるペット専門店では生後2ヶ月くらいの子猫がコロコロと動き回っていた。そのうちの1匹が私たちを見てガラス越しにじゃれてきた。「はは、可愛いのう。(でもとんでもない値段だのう...)」と癒されていると、すかさず店員が抱きかかえ、「抱っこされますか?」

そこからの記憶は曖昧である。気が付くと契約書にサインをしていて、ネコノミクスに大いに貢献してしまっていた。ユーミンの「リフレインが叫んでいる」が頭の中に鳴り響いている。人間は経済学が想定するように理性的な消費行動をするのではない。衝動的な行為に後から理由付けをするのである。ネコノミクス恐るべし。いやいや、また猫の奴隷となる楽しい生活が始まったのだ。


ペットショップで猫を抱っこしてはいけない。

1 http://www.petfood.or.jp/data/chart2015/index.html
2 https://www.kansai-u.ac.jp/global/guide/pressrelease/2015/No44.pdf


川島 啓
ソリューション本部
ソリューション部
研究主幹


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