コラム

バックナンバー

2016/07

「おふくろの味」の陰の立役者

「おふくろ(又はおやじ)の味」とは、幼少期に経験した家庭料理、もしくはそれを想起させ、郷愁・懐古といった感情を誘う料理のことである。

「おふくろの味」は、父や母から受け継いだ料理など各々のストーリーに起因しているところが大きく、世代や出身地、生い立ちによって感じ方にバラつきがある。味噌汁や肉じゃが、サバの味噌煮といった和食に、カレーライスやオムライスといった洋食に、中には中華やイタリアンに「おふくろの味」を感じる方もいるであろう。

和食の味を最も牽引する存在は味噌・醤油である。これらは種類が豊富な上、地域性が非常に強く、県、もっと言えば市や町を跨いだだけで味が変わるものであることから、サバの味噌煮一つをとっても地域によって味が異なってくる。2015年時点で醤油を製造している企業は全国に約1,300社、味噌を製造している企業は約1,000社ある。各企業は創業期より地域に根ざしているものが多いため、地域の方は「ここの醤油や味噌じゃないと駄目」と地元産を使用して料理をする方が多い。この料理を食べて育った子供は、進学・就職等の理由で地域を離れ、他地域で外観は親の作った料理と同じものを食したとき、違和感を覚える。そして、改めて家庭で作ってもらった、あるいは習った料理に郷愁を感じるだろう。つまり、和食における「おふくろの味」とは、「家庭の味」であると同時に、「地域の味」なのである。一方で、洋食等は「家庭の味」ではあるが、「地域の味」であるかというと、そうでもない。なぜなら、明治期以降から普及し始めたカレー粉やケチャップ、マヨネーズ等の洋食に使用する調味料は、国内においては大企業の寡占状態であり、味の差別化を図ることが困難なため、地域性や多様性がほとんど存在しないからである。以上から、様々な「おふくろの味」がある中でも、和食は特別な位置を占めていると私は考えている。

近年、先進国に広まる食に対する健康志向や、日本食のユネスコ無形文化財登録、ミラノ万博での高評価を背景に、味噌・醤油の国外輸出量は大幅に増加している(2000年比で2015年時点では味噌は約125%増、醤油は約147%増)。しかしながら、食の洋風化、代替品(ケチャップ・マヨネーズ・カレー粉・ドレッシング等)の多様化、共働き世帯増加に伴うインスタント・冷凍食品等による食の簡略化等の問題から、味噌・醤油の国内出荷量は逓減傾向にある(2000年比で2015年時点では味噌は約18%減、醤油は約26.5%減)。

今後、地域活性化という観点から、味噌・醤油に注目するのも面白いだろう。両調味料は、生産過剰を指摘される米の転作作物の一つである大豆を主原料としていることから、企業は主な販路先として農業と密接な関係性を有している。つまり、これらを使用して食事をとることは、単純に「地域の味」を守るだけでなく、国内の農業の維持・発展に直結しており、家庭からすぐに行うことが可能な地域活性化の方法ではないだろうか。


<参考HP>



小手川武史
地域本部
地域振興部 研究員


バックナンバー


ページトップへ