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2016/11

食への責任

ホルモンとトロ、これらに共通することは、私の好物であることの他には、昔は捨てられていた部位であることだ。食べ始められたのは、戦後と言われている。当時、食べるものがなく、何でも食べていた時代だったと思うが、それでも、馴染のないものを食べることは、未知の体験であるため相当勇気がいることだった。私も昔、祖父や母に蜂の子を強制的に食べさせられた時は、この世の終わりだと思った。(実際にはトウモロコシのような味がして、意外とおいしかった。)こんなつらい経験はもうこりごりだから、勇気を出して昔の人が様々なものを食べてくれたことに尊敬と感謝の気持ちが湧いてくる。彼らのおかげで私たちは今、バラエティー豊かな食生活を楽しむことができているからだ。

昔の人だけでなく、現代でも未知なる食べ物へ挑戦する人はいる。世界で起きたスシブームも、健康志向が発端だと考えられているが、そもそも海外の人がこれまで馴染みのなかった生魚を食べる勇気があったから起きたのだ。仮に健康に良いと言われても、私には芋虫やバッタ等を食べる勇気はない。とにもかくにも食べてみる勇気によって私たちの食べるものは日々多様化してきている。

これとは逆に、私たちが普段何気なく食べているものを一瞬にして手が届かないものにする出来事がある。それは、食中毒等の食品業界による不祥事だ。

私が近年最もショックを受けた出来事がある。それは、牛肉の生レバーの提供が法律により禁止され、ユッケの提供基準が強化されたことにより、実質的に食べられなくなってしまったことだ。愛してやまない生レバーを私の目の前から消し去り、ユッケを手の届かないものにした出来事は、ずさんな管理体制により尊い命が奪われた非常に痛ましい食中毒事件である。

私たち消費者は、食品のプロでない限り、食品の衛生状況を提供者の管理体制や良心に委ねている状態である。素人が分かる食品の良し悪しの判断は、せいぜい消費期限の確認、悪臭やカビの発生有無程度であろう。

この生レバーとユッケ事件以外にも、日本では近年、食の不祥事が目立っている気がする。某ハンバーガーチェーンや食品メーカーの異物混入事件や、産地偽装等、例を挙げるときりがない。全てが故意によって発生したものと信じたくはないが、防ぐ手立てはもっとあったのではなかったのではないか。SNSにアルバイト先の冷蔵庫に入った写真をアップロードする行為等を見ているとそう思わざるを得ない。

あの食中毒事件は、人命を奪い、さらに日本から生レバーとユッケを食べる環境を奪った。ユッケは提供基準が設けられたお陰で徐々に提供が再開されているが、生レバーは当面復活の兆しはない。大げさでも何でもなく、日本の食文化を1つ消しかけているとも言える。食に関わる人には、その先にいる消費者の健康や安全を考えていただきたい。さらに、食による不祥事で日本の食文化を消してしまうことになる危機感も併せて持っていただきたい。今食べられているおいしいものを消さないで欲しい。今後、生レバーのような事態がまた発生したら、私もその食べ物を愛する人も許さないだろう。食べ物の恨みは恐ろしいのだ。



武藏翼
地域本部
地域振興部 研究員


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