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2016/12

冬の定番「みかん」、味の再定義と思い出すおばちゃんの笑顔

愛媛県に10年ほど住んでいたときのこと、当時の先輩方に今までお世話になった人にお歳暮にみかんを贈るといいよと勧められた。北陸育ちの自分にとって、みかんは冬の定番であり贈答品のテッパンであったが、酸っぱいジュースを飲むぐらいならみかんを食べなさいという程度だった。たまに甘いものがあると祖母が2~3個取っておいてくれて、「今回は甘いよ」といってくれた。つまりは甘いみかんというのは基本的に存在しないものとずっと思っていたので、先輩から贈りものに、と言われたときは、正直もらった方は嬉しくないだろうと考えていた。その後、複数の先輩方からもみかんを勧められた。

そのみかんの名は「真穴(まあな)みかん」。先輩方は購入する場所も決まっており、愛媛県松山市から車で1時間ほど南下し、八幡浜市の国道沿いにある露店だという。当時はナビもなかったので、先輩に適当な地図を描いてもらい、休日に愛車の日産パオを運転して場所に向かった。

一時間ほどで現地に着いた。期待はできないと思うほど店構えが貧相だった。店の前に車を停めると店主らしきおばちゃんが「みかん、好きなだけ食べていいよ。それで気に入ったものがあれば教えて」という。このお店のシステムが理解できなかったが、どうやら同じ品種、生産者でも栽培している山で味が違うのだそうだ。おばちゃんからの薀蓄は食べてから聞くことにし、とりあえず一個試しに食べみた。するとすぐに口の中がみかんの濃厚な甘みでいっぱいになった。みずみずしいが水っぽくはなく、皮が薄く喉越しもツルっとし、酸味などはほとんど感じさせず、ほんのり塩気があり、それが甘みを増幅させていた。あまりの美味しさにその場で10個ほど食べた。たしかに酸味、甘み、塩気、水分量は山ごとに異なってはいたが、どれも感動の味だった。

お腹が落ち着いたところでおばちゃんにこの感動を伝えると、真穴みかんについて教えてくれた。なんでも美味しいみかんの条件は日光にどれだけ当たっているかとのこと。この真穴みかんの名前の由来である真穴地区は、山肌が瀬戸内海に面しており、上からの直射日光と海からの照り返し、さらにはみかんの樹の下にタイベックシートを敷くことで太陽の光を反射させている。それに潮風が吹くことでみかんに塩気がほんのり付くそうだ。

値段は当時キロあたり100~150円ほどだったので5、キロ/箱買っても送料よりも安かった。その場で気に入った山のみかんを5~6箱ほど買ってその場で送る手続きをした。もちろん自分用にビニール袋一杯買った。お店のおばちゃんも気前がよく、「これ持って行きなさい」と、これまたビニール袋一杯に野菜まで詰めてくれた。その後10年間おばちゃんのところに通い、利き酒ならぬ、利きみかんをして、その年獲れたみかんの中で自分の一番美味しいと思ったものを贈っていた。

通い始めて5年ほど経ったときから顔を覚えてもらえるようになり、みかんを食べる時間よりもおばちゃんと話す時間が長くなり、お土産もビニール袋一杯から段ボール箱一杯もらうようになった。

今年もそんな時期が近づいている。



澤田武志
調査本部
医療福祉部 副主任研究員


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