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2018/9

インドと日本の道路PPP
~おおらかに、全力で、失敗を恐れずに進む時~

日本ではなぜ、道路PPPが空港や上下水道のように推進されていかないのか。
政府では既得権益者関係の問題や、道路の適切な管理が可能か、当該道路が通行不可能となる事態を懸念している、といった事情も想定されるが、いずれにしろ道路の維持管理費用は莫大であり、人口減少により税収が減っていく中、出来るだけ民間資金を活用しなければならない時代が訪れていると思われる。

日本のように、様々な懸念事項について、最初に時間をかけて検討し、成功率を高める国もあれば、世界にはトライ&エラーの精神でまず制度を作り実施を試みる、という国も多いように思える(英国のPFIの失敗等)。今回はその一例としてインドについてご紹介する。

インドは、実はこれまで世界で最も多くの道路PPPプロジェクトをおこなってきた国と言っても過言ではない。

図表1:世界の地域別道路PPP/PFI件数

図表1:世界の地域別道路PPP/PFI件数

図表2:インドのセクター別PPP/PFI件数

出典:世界銀行Private Participation in infrastructure Database
https://ppi.worldbank.org/snapshots/sector/toll-roads

図表1は世界(先進国は含まない)の地域別道路PPP/PFIプロジェクト件数の内訳(1990年~2017年)で、最もプロジェクト件数が多いのは南アジア(427件)である。
図表2はインドのセクター別PPP/PFI件数内訳(1990年~2017年)で、道路セクターは電気セクターと同率一位(424件)である。 2表を比較すると分かるように、南アジアの427件の道路PPPのうち424件はインドで行われていることになる。

主要な先進国のデータと比較すると、例えば米国で2012年以降に行われたPPP案件は364件(道路に限らず全セクター合計)であることからも、この件数がいかに大きい数字かわかる(図表3)

図表3:先進国のPPP/PFIプロジェクト件数

PPP/PFIプロジェクト件数(全セクター合計)
米国 364件(2012~2018年現在)
英国 281件(同)
フランス 103件(同)
ドイツ 17件(同)
イタリア 63件(2011~2018年現在)

出典:InfraPPP ウェブサイト (2018年8月25日時点)
http://www.infrapppworld.com/pipeline-html/projects-in-usa-united-states-of-america

しかしこれらの試みにより、不採算事業が相次ぐ等の失敗もみられ、金額ベースでは2012年から2015年にかけてPPP事業全体が下火になった。インドで失敗した道路PPPの主な理由をまとめると以下だ。

① 政府による用地取得や土地等各種権利の整理の遅れ
② 上記による工期の延長とコスト増
③ 民間事業者や金融機関による不十分なDD
④ 上記による現実とかい離した需要予測
⑤ 入札競争の過熱による、現実に見合わない金額の提案

ちなみに、需要予測については米国等の先進国でもいくつかの道路PPPプロジェクトが失敗に終わった大きな原因である。これについては主要都市を繋ぐ道路でも、途中の交通状況について整理する等の対策が有効である。
インドではこれらの失敗を経て、現在は新しい事業方式と事業類型の組み合わせや、プロジェクトへの政府出資比率を増やす等の対策により、特に中堅企業を中心に、再熱の兆しがみられる。またこれは見方を変えれば、大企業ではなく中堅企業にチャンスが訪れているということでもある。

日本では、海外に比べ、特に公共事業は一度失敗すると責任問題が大きく追及される傾向にあるように感じる。そのため簡単にトライ&エラーを繰り返し成長するという構図を描くわけにはいかないかもしれない。それでも勇気とできる限りの努力を以て先進的な取り組みを進める自治体があるからこそ、新しい取り組みの流れが少しずつ、そして着実に生まれる。そういった過程を経た結果、失敗することもあるかもしれないが、失敗があるからこそより良い官民連携事業が考案されるという側面もある。官民連携は人口減少下の日本で進めていくべき政策であり、日本人の慎重さ、正確さ、仕事への熱意を以て意見するならば、失敗や批判に敏感になりすぎずに政府・各自治体の官民連携の検討や政策化が進めばよいと思う。

戦後1950年~1970年代につくられた日本の道路・橋梁の多くは一斉に更新時期を迎え、老朽化は止まってはくれない。道路が摩耗すると交通事故が多くなり、橋梁が老朽化すると笹子トンネル天井板落下事故やイタリア・モランディ橋のように崩落する。 愛知県道路公社ではコンセッション、府中市では市内道路に対する維持管理の包括委託等、全国の自治体で少しずつ、道路分野で民間活力を取り入れる先進的な取り組みが始まっている。人口減少に伴い自治体の職員数も減少していくことが予想されるこのような時代だからこそ、国では早めに制度の検討が、各自治体では早めに維持管理の民間活用方法等の検討が、進むことを願っている。
※本稿は日本経済研究所の公式見解ではなく、あくまでも研究員の個人的な意見です。


山田真有
社会インフラ本部
公共マネジメント部
研究員


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