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2019/04

マイナンバーカードの取組と未来への所感

唐突だが、先日、戸籍謄本を取り寄せる手続きを行った。筆者の本籍地が遠方であることも関係して、専用の申請書をダウンロード・印刷し、定額小為替を買い求め平日の昼休みに郵便局へ行く必要があるなど、手間のかかる作業だった。
さて、既にご存知の方もいるかと思うが、マイナンバーカードを持っていれば、コンビニのキオスク端末で戸籍証明書が発行できるため、上記のような手間は大幅に短縮される。戸籍証明書の他に、住民票や印鑑証明書などの発行も可能1だ。しかも、自治体によっては窓口申請よりも安価に各種証明書の発行ができる場合がある。
筆者もこの制度について聞きかじってはいたが、特に差し迫った必要性を実感できていなかったため、未だマイナンバーカードの申請を行っていなかった。筆者と同様の理由でマイナンバーカードの申請を行っていない方は多いだろう。実際に、総務省が公表しているマイナンバーカードの人口に対する交付枚数率は、平成30年12月1日現在で12.2%と1年前と比較して1%(枚数では約260万枚)の増加となっており、普及には時間がかかっている印象だ。

マイナンバーカード交付枚数等の推移

そもそも、マイナンバーとは、日本に住民票を有する者に与えられた12桁の番号であり、社会保障・税・災害対策の3分野において、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるものである2。従来では時間と労力のかかる確認作業であったが、マイナンバーを導入することで、これらが大幅に改善されることとなった。
そして、マイナンバーカードは、電子証明書等の機能が搭載されたICチップと写真が付ついた身分証明書である。通知カードにはマイナンバーが記載されているものの、身分証明書としては不十分で、その他に運転免許証等の提示を求められることがほとんどだ。マイナンバーカードの発行手数料は無料で315歳以上であれば自身で申請が可能であるため、写真付きの身分証明書を所持していない者にとってはうれしいことであろう。

ここで、マイナンバーカードが「ICチップ付きのカード」であるという点に少しフォーカスを当ててみよう。ICチップが付いているということは、それ自体が小さなコンピュータといえる。実際にマイナンバーカードに搭載されているICチップには、カードOSと呼ばれるICチップ専用のOS(ICチップに搭載されたアプリケーションを制御・管理し、マイナンバーカードの持つ機能を発揮するためのソフトウェア)が搭載されている4。マイナンバーカードでは、このカードOS上で動作するアプリケーション(以下、AP)として、①公的個人認証AP、②券面事項確認AP、③券面事項入力補助AP、④住基ネットAPの4つが初めから搭載されており、それぞれのAPについてここでは詳しく説明しないが、前述した各種証明書等のコンビニ交付には①に搭載された電子証明書が利用されている4。ちなみに、身分証明書として広く認識されている運転免許証にもICチップ付きのものがあるが、こちらには電子証明書が搭載されていないため、電子申請等には利用できない。そのように考えるとマイナンバーカードの取得は、公的個人認証が活用できる小さなコンピュータを無料で手にできる機会ではなかろうか。
もちろん過去にこのような公的個人認証が利用できるカードがなかったわけではない。住民基本台帳カード(住基カード)がそれにあたる。しかし、マイナンバーカードが住基カードと異なるところは、公的個人認証の利用範囲にある。
マイナンバーカードのICチップがもつ公的個人認証APと空き領域は総称して「マイキー」と呼ばれ、公的機関だけでなく民間での活用が可能な仕組みとなっている5。住基カードでは電子証明書の利用が行政利用に限定されていたため、マイナンバーカードによってその利用可能性は大きく広がったと言えるだろう。実際に身分証明や各種証明書の発行以外にもこの「マイキー」を利用したマイナンバーカードの活用事例が出てきている。
例えば、公的機関が活用している事例として、姫路市立図書館6や豊島区立中央図書館7など全国のいくつかの図書館では既に、図書カードの代わりにマイナンバーカードを利用して図書の貸出が可能となっている。
民間事業者が活用した事例としては、住宅ローンの契約手続への利用がある。株式会社三菱東京UFJ銀行(現:三菱UFJ銀行)が凸版印刷株式会社等と連携して、マイナンバーカードの公的個人認証サービスを活用した住宅ローン契約電子化システムの運用を開始している。これにより従来銀行へ足を運び、契約書紙面への記入、押印、印紙貼付等が必要だった住宅ローン手続きを自宅のパソコンからペーパーレスで実施することが可能となっている8
そして「マイキー」を活用した取り組みは、上述のように対象を1つに限定する活用方法だけではない。例えば会員となった図書館や美術館等はマイナンバーカード1枚で利用可能になったり、自治体ポイントと連携して、ボランティア等に参加した人に自治体がポイントを付与し、付与されたポイントは商店街での物品購入や公共施設の利用に活用できるといったような多面的な活用が検討されている。こうした構想は「マイキープラットフォーム構想」と呼ばれている9
現在はあまり普及率の高くないマイナンバーカードであるが、マイキープラットフォーム構想のもと官民連携でマイナンバーカード利用者の利便性向上に資するようなICTサービスの提供が行われれば、普及率も向上するとともに、更なる利便性向上につながるという循環が生まれるのではなかろうか。

さて、これまでマイナンバーカードの有する特徴やその利活用について述べてきたが、一方で、マイナンバー制度は、ICT技術という大きなインフラの上に構築されている点を忘れてはならないだろう。現在、スマートフォンを利用できなくなっただけで生活が不便になる時代である。マイキープラットフォーム構想等で情報の集約化が進めば、電力供給の遮断や通信障害が発生した時の影響はますます大きくなると考えられる。想定外の事態が発生する可能性も高くなるだろう。そして想定外の事態に対応するためには、ハード的な対応だけでなく、可能な限りの状況想定と対応時の判断や行動のシミュレートによって、その根底にある理念を共有するといった、ソフト的な対応がより重要となるだろう。また、そうした取組の積み重ねによって複数の主体間に信頼関係が構築できれば、非常時にも協力して想定外の事態に対応することが出来るのではないだろうか。
平成を振り返るとICTの発展が目覚ましい時代であった。そして様々な想定外を経験した時代でもある。そのような経験を活かし、あらゆる主体が垣根を越え、信頼関係を築きながらより良い社会の実現に向かって連携できることを望んでいる。



1 総務省「コンビニ交付について」,2019年3月25日アクセス.
2 内閣府「マイナンバー制度について」,2019年3月25日アクセス.
3 地方公共団体情報システム機構「マイナンバーカード総合サイト」,2019年3月25日アクセス.
4 西村幸浩・小野津崇之・志賀正裕(2017)「マイナンバーカードの技術仕様と利活用方式」,FUJITSU. 68, p59-65, 富士通
5 総務省(2018)「マイナンバーカードのマイキー部分について」,2019年3月25日アクセス.
6 姫路市立図書館「マイナンバーカードによる図書館利用サービスのご案内」,2019年3月25日アクセス.
7 豊島区 「マイナンバーカードによる図書館資料の貸出サービスを開始します」,2019年3月25日アクセス.
8 内閣府(2017)「[総11-6]政府税制調査会(マイナンバー制度等の状況について)(説明資料2/4)」,2019年3月25日アクセス.
9 自治体ポイントナビ「マイキープラットフォーム構想の概要」,2019年3月25日アクセス.


藤井隆行
公共デザイン本部 PPP推進部
副主任研究員


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